自分は運転が上手か下手か……正直なところ下手ではないと思っているけど、たまに落ち込むほど上手くできないときがあります。いつもの駐車スペースなのに、降りてみたらものすごく斜めに停めてしまってたり、後ろが無駄に空いていたり。そんな時には「どうしたの? 私」と本当にヘコみます。
この前まで読んでいた小説は、一人の俳優と専属ドライバーの心の交流を描いたものでした。初めから最後まで物語は静かに流れていきました。でも、文面からそのドライバーの運転がいかに静かで上手かがわかるんです。ふつうは文章だけで乗り心地なんてわかりっこないと思いますよね。物語を読んでいるだけなんですから。でも不思議なことに、まるで主人公と一緒にその車に乗っているような錯覚に陥るんです。二人の会話を聞いている感覚だから、私は後部座席に同乗しているといった具合でしょうか。信号で停まるとき、発車するとき、車線変更をするとき、駐車をするとき、全てにおいて完璧なんです。そのドライバーは24歳の女性です。でも、必要なこと以外は話さない、化粧っ気のない女性です。彼女の姿も私には見えています。頭の中にはっきりとあるんです。不思議なもので、その小説を読んで以来、実際には見たこともない(当たり前です。物語の中の人物ですから)その女性になった気分で運転していたりするんです、私。運転のレベルがすごく上がったようで、やたら楽しいんですけど、降りたときに斜めに停まっていたりすると逆にショックを受けます。そこは現実です。