亡き妻が残したとっておきの日記

キッチンの片隅に残されたノートには、妻が生前記した愛おしい記録が残されていました。料理のレシピや日常のささいな愚痴、心に残っている小説など、生きてきた中で彼女が経験してきたことが時にはユーモラスに、また時には真剣な眼差しで書かれておりました。夫は亡き妻が予約したカリスマ講師が教える料理教室へ行くことになり、その準備としてシイタケを煮ます。しかしながら今まで家事を全て奥様に任せていたため、干しシイタケを水に戻すということすら知りません。四苦八苦しながら、堅いシイタケを煮ている時にそのノートに出くわすのです。最初はただ何となく読んでいたのですが、そのうち鮮明に残された記憶を真剣に辿り始め、いつしか今まで頼っていたインスタント食品から卒業して、台所に立つようになるのです。そんな父のご飯を食べに娘や孫が頻繁にマンションに通うようになり、家族の関係を改めて築いてゆくのでした。
妻はあまり深く考えずにこの日記を書いたのかもしれませんが、残された者達にとっては最良の宝物になったと感じました。また母が家族のためにご飯を作ることは当たり前のように感じていた若い頃を思い出し、ちょっぴり申し訳ない気持ちになったものです。それは、ノートに家族のために作る料理へのちょっとした不満が書かれていたからかもしれません。
この小説からは料理をすることはもちろんのこと、日常の中にあるささいな不満や幸せは生きている者にしか味わうことができないものです。これから先の人生、いい事も悪い事も美味しい事もしっかり味わいながら大切に育んでゆきたいと感じたのでした。

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